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又吉直樹氏の火花を読む

話題の新刊を知人から借りました。芸人さんが芥川賞を取るのは珍しいこと、本の装丁が素敵なことから、興味を持ちました。

 

 

 

 

お笑い芸人もテレビにも疎いですが、彼の顔と名前は知っていました。同居人の持ち物にこんなステッカーが貼ってあるのですが、妹が遊びに来るといつも「又吉そっくり」と言って笑うのです。 

 

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以下ネタバレが有ります。

 

小説のあらすじ

主人公は売れない芸人(徳永)。徳永がとある売れない先輩芸人(神谷さん)に出会います。神谷さんは「俺の伝記を書け」と言います。神谷さんに憧れを感じている主人公が彼と関わりながら「笑い」や「人生」などについて考えてゆきます。主人公の徳永は又吉さん本人がモデルと思われます。

 

印象に残ったところ

徳永たちは芸人で、時には見知らぬ人から誹謗中傷を受けます。ネットに傷つく書き込みをされることも。徳永は「すごく嫌だし腹が立つが、気にならないか?」と神谷さんに聞きます。そこで神谷さんが徳永に返した言葉が良かった。

 「だけどな、それがそいつの、その夜、生き延びる為の唯一の方法なんやったら、やったらいいと思うねん。俺の人格も人間性も否定して侵害したらいいと思うねん。きついけど、耐えるわ。(中略)ちゃんと腹立ったらなあかんと思うねん。受け流すんじゃなくて、気持ち分かるとか子供騙しの嘘吐いて、せこい共感促して、仲間の仮面被って許されようとするんじゃなくて、誹謗中傷は誹謗中傷として正面から受け止めたらなあかんと思うねん。(中略)人を傷つける行為ってな、一瞬は溜飲が下がるねん。でも、一瞬だけやねん。そこに安住している間は、自分の状況はいいように変化することはないやん。他を落とすことによって、今の自分で安心するという、やり方やからな。その間、ずっと自分が成長する機会を失い続けてると思うねん。」

又吉直樹/火花(p.96−97)より

 

あなたが楽になるならわたしはその言葉を受け止めよう。時に腹も立てよう。だけどそのことで気を病むことはない。他人の自己満足のためにわざわざ傷つくことはない。己は己の道を行くべし。そんな考え方に共感しました。

 

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次。コンビ解散で渾身の漫才をやり切ったことでようやく掴んだ漫才師・徳永の人生観。

必要がないことを長い時間かけてやり続けることは怖いだろう?一度しかない人生において、結果が全く出ないかもしれないことに挑戦するのは怖いだろう。無駄なことを排除するということは、危険を排除するということだ。臆病でも、勘違いでも、救いようのない馬鹿でもいい、リスクだらけの舞台に立ち、常識を覆すことに全力で挑める者だけが漫才師になれるのだ。それがわかっただけでもよかった。この長い月日をかけた無謀な挑戦によって、僕は自分の人生を得たのだと思う。

−又吉直樹/火花(p.130)より

 

やりたいことは全力でやり切れ。やり切ることで不安も迷いも吹っ飛ぶ。青臭くて良いです。わたしも一生こんな感じで生きてみたいなあ。

 

最後は予想外に明るい〆。流石にオチが分かっちゃうとあっけないので書きませんが、神谷さんの可愛いアホらしさに笑いました。バッドエンドでなくて、終わりが爽やかで良かった。おおよそ10年前、綿矢りささんの蹴りたい背中を読んだ時にも同じような爽快感を感じたことを思い出しました。

 

2時間もあればサックリ読めちゃいます。興味のある方はぜひ。

 

 

みどり